南君の憂鬱

 

「あー!やっと見つけたー。探したよ南くん♪」
「俺は会いたくなかったぞ」
「そんなー冷たい!俺と南くんの仲じゃないですかー」
「俺は望んでなかったけどな。つーかお前と話してると胃が痛くなるんだよ。飯がまずくなる」
「そんなーひどいっ。キヨスミショック」

昼休みの食堂。大げさな身振りでショックを受けたのは千石清純。
こいつが俺の所に来るときは大抵ろくでもないことになる。
これでもウチのエースなんだからたちが悪い。
そんでもってこんなのを副部長に任命した伴爺もたちが悪い。
俺はこの年で苦労の似合う男になりたかった訳じゃあないんだぞ。
ああくそ。胃が痛くなってきた。

「で?今日は何なんだ」
「きゃーさすが南くん!そうこなくっちゃ。愛してるよー」
「お前の愛はいらん。で。何だ?」
「あのねー。今日の鍵当番代わって」
「やだ」

即答してやったらオレンジ頭が激しくへこんだ。

「だってなー。お前俺とお前で1日交代って決めただろ?」
「今日は大事な用事があるんだってばー」
「そう言って結局お前はまだ1回も鍵当番やってねえよなあ?」
「あれ。そうでしたっけ」
「とぼけても無駄だぞ。こっちはちゃんと記録つけてるからな」
「え!うそお!?まじですかそれは・・・」
「ああ。ホントだ」
「ということでお前も今日くらいはちゃんとやれな。」

がっくりうなだれた千石を尻目に俺は食べかけの昼飯に手をつける。

「南くんのばか」

「初めてあっちから誘ってくれたのに」

「これで別れたら南くんのせいだからね」

うっとうしいことこの上ないが千石はうなだれたままめそめそし出す。しかも用事はデートらしい。

「お前の恋路より俺は部の方が大事だ」
「ひどい!その大切な部員のピンチなのに」
「俺が大事なのはお前以外。大体隣の女子校のゆりちゃんなら毎日会えるだろう」
「ゆりちゃんとは半年前に別れたってば」
「そうかよ。で今度はそん位で別れるようなヤツと付き合ってるのかお前は」
「うん。めちゃくちゃプライド高くてね。わがまま。さすが氷帝一の美人さん♪」

千石の口から出てきたのはテニスをやってる者なら誰でも知ってるであろう名門校。
ウチとは2ヶ月ほど前練習試合をやった学校。おおかたその時にでもひっかけてきたのだろう。

「あのギャラリーからひっかけてきたのか?」
「は?ギャラリー?・・・ああ。違うよー。ちゃんと会ったのはJr選抜の時が初めて」
「はあ?あれって女子も一緒だったのかよ」
「んなわけないじゃーん。むさ苦しい男の園でしたよ」
「じゃあなんで・・・」
「へへー。誰か知りたい?知りたいでしょ?あのねー。今つきあってるのは氷帝の跡部くん」
「・・・は!?」

千石の口から出てきた名前が一瞬誰か分からなくて絶句した。
跡部って・・・あとべってあれだよなあ?
まさかとは思うけどあの氷帝の部長の跡部?
いや。そんなはずは無い。あいつは大体男だ。

「跡部って妹か姉貴いたんだなー。知らなかった」
「へ?何言ってるの南。跡部くんに女兄弟居ないよ」
「じゃあ誰とつきあってるんだよ」
「誰ってだから跡部くんって言ったじゃん。跡部景吾。でもさー名前で呼ぶと怒るんだよねー」

『そんなとこも可愛いんだけど』とかさらっと惚気てるヤツを尻目に俺は今度こそ何も言えなくなった。
ありえない。男だぞ?千石が面食いなのは知ってたけど男だぞ?
(跡部は男の俺から見ても確かに整った顔だとは思う)
ほんっとに顔しか見てねえな。顔しか。

や。とりあえず落ち着け俺。
大体千石が常識はずれだなんて今更分かりきってるじゃないか。

「ねーってば南聞いてる?まあいいけどとりあえず鍵当番は頼んだよ!」
「ああ?てめえふざけんな。それとこれは別・・・」

突然現実に引き戻されたときには『じゃあねー』っとすでに遠くで手を振る千石しか見えなかった。
気づいたら昼休みも終わりで1人嬉しそうに教室に戻っていく千石を俺は唖然と見送るしかできなかった。

ただし何とか残った理性で練習試合の関係で手に入れていた跡部の携帯に事の次第を報告したことだけは付記しておく。


『てめー今日は鍵当番終わるまでウチ来るな。さぼったらウチ入れねーからな』

昼休み終わる前に入ったメール。専用の着信音にうきうきしながら見て速攻へこんだ。

「おい南!!跡部くんにさっきのことちくったでしょ!?」
「ああ」
「ってか何で南が跡部くんの携帯知ってんの!?」
「は?お前そりゃ部長同士なんだからあたりまえだろ。この前練習試合だってしたし」
「ええー!そんなー!ずるいっ。南職権乱用!俺なんか3ヶ月もかかったのにー」
「あーうるさい!お前の日頃の行いが悪いんだろ」

今日も山吹は平和です。

 


違う人視点でセンベが書きたかったので。そんでもって南が書きたかったので。
こーいうカンジの学生生活っていいよなーと思います。
頑張れキヨ。頑張れ南。
最後のおまけが実は1番書きたかったシーンなんですがそれは禁句なのかなあ。

 

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